通常、複素数では大小関係が使えません。
しかし、拡張不等式を使えば、複素数でも大小関係を扱うことができます。
これはあまり知られていませんし、教える人もほとんどいません。
一般的に現在は、複素数同士の比較はできないという事を教えられていますが、実はそうではないのです。
拡張不等式で複素数の大小関係を示す
拡張不等式を使用するためには、ポジティブ集合を決める必要があります。
実数が1次元なのに対して、複素数は2次元の広がりをもっています。したがって複素数の大小関係の定義は1次元の実数に比べるとより複雑です。
ここでは、ポジティブ集合\(P\)を次のようにさだめて拡張不等式を作っていきます。
\(P=\{x+yi| x>0\} ∪ \{x+yi|x=0,y>0 \}\)
虚数単位は正か負か
それでは、よく話題にでる、虚数単位が正なのか負なのかを判定してみます。
虚数単位と0を比較しますと、
\(\displaystyle \frac{i-0}{1}=i \in P \)
が成立しますから、拡張不等式の定義式より、\(0<_1 i\)は正しい不等式となります。
通常の不等式では、この式の両辺に\(i\)を掛けると矛盾が発生するために、複素数では不等式が使えないと言われてきました。
それでは、拡張不等式の両辺に\(i\)を掛けるとどうなるのかみてみます。
\(0*i<_{[1*i]} i*i\)
\(0<_{i} -1\)
となります。拡張不等式では、両辺だけでなく、不等号の添え字にも\(i\)を掛けるのがミソとなっています。
この不等式が正しい不等式かどうかしらべてみます。
\(\displaystyle \frac{-1-0}{i}=i \in P\)となって、特に問題はありません。
両辺に\(i\)を掛けても矛盾は発生しないのです。
結論からいいますと、\(0<_1 i\)から矛盾を引き起こすことはできません。
したがって、\(i\)は正の複素数(0より大きい複素数)であることが示せました。
記号「\(<_1\)」とか、「\(<_i\)」について
\(<_1\)は右辺が左辺より大きいことを示す不等号記号です。
これは、別の言い方をすると、右辺の数は左辺の数より1の方向を向いているともいえます。
1の方向とは、0からみて右側にあるということです。
それでは、\(<_i\)はどうかというと、右辺の数が左辺の数より\(i\)の方向を向いているということです。\(i\)の方向とは、複素数を平面で表したときに0から\(i\)に向かう方向の事です。
複素平面では、虚数軸をy軸にしますから、\(i\)は0から見て上の方向を向いています。
「\(i\)」自身も「\(0\)」からみると「\(i\)」の方向にあるので、これを「\(0<_i i\)」という拡張不等式で表すことができます(ただしこれはポジティブ集合が「\(1\)」を含んでいることが前提として必要です)。
「\(0<_1 i\)」と「\(0<_i i\)」は別の拡張不等式ですが、ここで仮定しているポジティブ集合の場合は両方とも正しい不等式となります。
実数の不等式との関係
通常の不等号「\(<\)」「\(>\)」は実数に対して使われます。
すなわち、例えば「\(a<b\)」とかかれていれば、暗黙で\(a,b\)は実数であることが仮定されています。
拡張不等式は通常の不等式の概念を含んでいます。
具体的には、「\(<_1\)」が「\(<\)」と同等の働きをします。同様に、「\(>_1\)」が「\(>\)」と同等の働きをします。
なお、拡張不等式では、「\(<_{-1}\)」と「\(>_1\)」は同じ意味ですから、左向きの「\(>_1\)」はなくても右向きの不等式だけで用はたりるのですが、便利さのために、二つの向きの拡張不等号が用意されています。